2010/11/03

文化の日 時には童話 夢を見て やがて恐ろし 浮世の世界

今日は文化の日、写真はお休みを貰って、2年目にある雑誌の掲載したブラック童話紹介します。

イルカとサメ

広い海の底でサメとイルカが出会いました。
サメはイルカに問いかけました。「イルカ君。どうして君は人気者なんだ。僕たちは泳いでいる時の姿はそんなに変わらないのに、僕は人間にすごく嫌われている。でも、君はいつも人気者、羨ましいよ。何か人間に好かれる秘訣があれば教えてよ。」
イルカは答えました。「そんなもの何もないよ。ただ、人間が勝手に僕たちを可愛がってくれているだけだよ。」サメは一言「いいな」そして続けました。「僕たちは人間を食べるから悪者扱いされているけど、そんな連中はごく一部なんだ。ほとんどの仲間は人間を恐れて彼らには近づかないよ。そういえばこの前、僕の友人で可愛そうな奴がいたよ。彼は怖がりだから絶対人間には近づかないタイプだけど、サメのくせに泳ぎが下手なため、たまたま浅瀬に迷い込んだら、そこが海水浴場で人間が沢山集まっていた。大騒ぎになって人間に捕まり、殴られ、ボコボコにされて最後はクレーンで吊り下げられてさらし者になってしまった。本当に優しくて良い奴だったのに可哀相だったよ。」
その話を聞いたイルカが言いました。「それは本当に気の毒な話だなぁ。」「僕たちは人間に愛されているけど、人間に愛されている連中ほどイルカ仲間から評判の悪い奴がいるよ。この前も、僕たちの仲間から総スカンをくっている年寄りで、頑固なイルカが老人ホームに入ることが出来なかったので仕方なく浅瀬で餌を探していたら引き潮のため浅瀬に乗り上げてしまった。すると人間たちは大騒ぎ、その地域の村人全員でその老イルカを助けたんだ。ところがこの老イルカはそのことをいい事に生活が出来なくなったら人間たちのいる場所に通うようになったんだ。また、人間も凝りもせずに何度も何度も彼を助けてくれたんだ。この前なんかは、以前オリンピックで活躍した綺麗なお姉さんが一緒になって泳いでくれたり、キスまでしてくれた、と自慢していたよ。」
「ふーん、そんなものなのか。君たちにもいろんな仲間がいるんだなぁ?」サメはイルカの話に妙に納得し、ではまたと二人は別れました。

そして何日経った或る日、サメのリーダーは仲間を集めてこう話しました。「いいかみんな、これからはどんなことがあっても人間を襲ったりしないようにしてくれ、俺たちは俺たちの領域で分相応に生きていけばいい、俺たちサメだけではなくイルカ君もそれなりに悩みはあるみたいだ、だから、俺たちはサメらしく生きていこう。」仲間も大賛成です。
ところが、そのサメのリーダーの呼びかけから暫くしてある嵐の夜、多くの人間を乗せた船が沈没しました。そして多くの人間たちが大海原に投げ出されました。しかしサメたちはリーダーの話を忠実に守り決して人間を食べようとはしませんでした。ところが、この嵐の中サメの餌もほとんどなくなっていました。そのうちサメの一人が、「リーダー、今は100年に一回と言われる食糧難の時代です。ここに放り出された人間たちは神様が俺たちに恵んでくれたものではないでしょうか?このまま食べずにいたら俺たちは全員飢え死にしてしまいます。ここは人間を頂いても罰はあたらないのではないでしょうか?」
リーダーは熟考しました。そして、決断しました。「よし分かった、人様を頂くことは俺たちの本意ではないけど、ここは非常事態だ、やむを得ない、今回だけは人間様を頂こう。」ほどなくして大海原に放り出された人間は全員サメの餌になってしまいました。船の残骸以外何も残っていません。ただ残ったのは船の名前を記した一枚のプレートだけです。そのプレートには船の名前の下に、(この船は只今、死刑囚移送中)と書かれてありました。実はこの船、人間社会で殺人、強姦、強盗と極悪の限りを尽くした罪人たちをある島で公開処刑するために死刑囚を搬送していた船でした。彼らはいずれ死刑となる囚人ばかりそれも人としての心のかけらもない極悪人たちでした。サメはそんな極悪人を食べてしまったのです。

一方、イルカの間では妙な噂が広がっていました。先程の人間の好意に味をしめた嫌われ者の老イルカが言わないでいい事を吹聴していました。「人間社会はありがたいぞ、俺たちみたいな嫌われ者を大切にしてくれる。食べ物は食べきれないほど与えてくれるし、浅瀬に乗り上げて泳げなくなったら沖合いまで連れて行ってくれる。どうだ、どうせイルカ仲間から嫌われている俺たち年寄りで人間のご好意に甘えに行かないか?」それを聞いた老イルカの仲間たちは「俺も、俺も、とその数はあっという間に50~60人くらいになりました。」イルカの若きリーダーは「あなたたちは人の好意に甘えるのはいい加減にしたらどうだ。イルカはイルカらしく大海原を生きることが正しい生き様ではないのか。」老イルカは語気を荒げて言いました。「何を馬鹿なことを言ってるんだ、俺たちはイルカ社会の嫌われ者どこにいっても鼻つまみ者、だったらご親切な人間にお世話になるほか生きる道はないんだよ。お前らみたいな若造に何がわかる。オイ、みんな人間ご好意に甘えにいこうぜ。」言い終わるや否や老イルカは人間の住む小さな漁村へ仲間とともに出かけていきました。次の日、小さな漁村は大変な騒ぎになっていました。大量のイルカが浅瀬に座礁、このニュースを聞いた人間たちは全国からこの小さな漁村にやってきました。「イルカを救おう」を合言葉に何百人という人間がイルカ救済に駆けつけました。中にはかつてオリンピックで活躍した女性水泳選手やイルカ保護のNPOを立ち上げた女優も参加しました。お陰で老イルカたちは豪華な料理を頂き、最後は綺麗な女性と手を繋ぎ沖合いへ帰っていきました。舞台となった漁村はその後、このイルカ騒ぎの費用を捻出するのに苦しめられるようになり、財政破綻で漁村はゴーストタウンとなってしまいました。
死刑囚を食べてしまったサメは今でも嫌われ者です。
小さな漁村を壊してしまったイルカは今でも人気者です。

サメとイルカは泳いでいる時はよく似ています。でも、片方は嫌われ者、一方は人気者、人間もよく似ているが嫌われ者と人気者がいます。でも、嫌われ者でも時にはいいこともします。人気者も人に不快を与えることもあります。

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